【書評】気軽に知的好奇心を!:ブロックマン編「知のトップランナー 149人の美しいセオリー」
- 作者: リチャード・ドーキンス,スティーブン・ピンカー,V・S・ラマチャンドラン,スチュアート・ブランド,ブライアン・イーノ,ティム・オライリー,ナシーム・ニコラス・タレブ,ジャレド・ダイアモンド,ジョン・ブロックマン,長谷川眞理子
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2014/11/21
- メディア: 単行本
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新年度・新学期が近いということで、何か新しい知的刺激を読書から受けてみてみませんか?今回、紹介する本はそんな知的刺激に満ちて、好奇心を広げてくれる一冊です。
「The edge」と称するアメリカのサイトにて、生物学から物理、工学、心理学など多分野にわたる学者に向けて、毎年ある特定の質問を投げかけていた(今年で最後なのは本当に残念)。本書は2012年の以下の質問を題材にまとめたもの。
「あなたのお気に入りの、深遠で、エレガントで、美しい説明は何ですか?」
WHAT IS YOUR FAVORITE DEEP, ELEGANT, OR BEAUTIFUL EXPLANATION? | Edge.org
題名は「知のトップランナー」とあるが、その多くは一般向けの科学書で著名な科学者あるはライターたち、つまり「知の語り部」であり、その点こそが本書を魅力的なものにしている。一人一人は数ページほどしかないので深い知識が得られることはできないが、その分、気軽に、多様な視点で秀悦な短い説明が展開されるので、多様な分野にわたる知的な好奇心を刺激してくれる。
では、本書の特徴を3点に絞って紹介したい。
お気に入りの理論が熱く語られる
「知の語り部」たちが選りすぐった理論を説明してくれるので、専門外でよく理解できなくとも、その熱気だけでも味わうことができる。また、いろいろな科学理論が含まれているので、単にそういった言葉だけを知っておくだけで、次への足がかりやリテラシー向上にもなり得て、科学的教養が深まる。。昨今はすべてネットの検索すませてしまうことが多々あるが、検索するにはまずはそういった言葉や概念を知る必要があり、その意味でも役に立つはず。
科学の議論が垣間見られる
たびたび同じ理論が多数の学者に選ばれているが、それぞれの説明は分野によって違って面白い。時には正反対の説明をすることも。しかも、質問の中に「正しい」が入っていない点を逆手にとって、最近のまだ検証されていない仮説や、間違っていることがすでに分かっている説明をとりあげたりして、科学がどのように議論されて発展していくのか、その一端を垣間見ることができる。特に「美しさ」と「正しさ」の関係が白熱した議論となっており、「対称性」の扱いは鋭く意見がわかれる。このような議論を知ることで、科学が絶対的ではない、むしろ紆余曲折に、検証を重ねて、正しいらしいものに近づいていくことが理解できるかもしれない。
次なる読書の案内
これが特に重要であり、短い説明で興味を持って、関心を高めることで、次への読書へつなげることができる。ここで取り上げれれた学者の多くは有名な著書があって、かなりの部分が日本語に翻訳されている。本書を手掛かりに、いろいろな本に出会えればきっと新しい世界が広がってくるはず。
関連読み物
ここでは、私の馴染みのある著者たちによる代表的な本を紹介。
ブラックモア:心理学者。ミーム(文化的な複製子)の本で有名に。
- 作者: スーザンブラックモア,Susan Blackmore,垂水雄二
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2000/07
- メディア: 単行本
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- 作者: スーザンブラックモア,Susan Blackmore,垂水雄二
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2000/07
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マット・リドレー:生物系サイエンス・ライター。進化に関する多数の素晴らしい著書がある。そのなかでも、この本は協力に関するもの。
- 作者: マットリドレー,岸由二,Matt Ridley,古川奈々子
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2000/06
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リチャード・ドーキンス :進化生物学者、サイエンス・ライター。進化の啓蒙書「利己的な遺伝子」で有名、難しい概念を比喩でわかりやすく説明、ただ誤解を生むことも。この本は現存の生物たちの面白い営みを逆の進化史に従って説明するという面白い本。
- 作者: リチャード・ドーキンス,垂水雄二
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2006/08/31
- メディア: 単行本
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- 作者: リチャード・ドーキンス,垂水雄二
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2006/08/31
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ピンカー:認知心理学者。チョムスキーの生成文法を生物の進化に基づいて紹介という本で有名に。最近、暴力などの文化にも手を伸ばす。
- 作者: スティーブンピンカー,Steven Pinker,椋田直子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 1995/06/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: スティーブンピンカー,Steven Pinker,椋田直子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 1995/07/01
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フリーマン・ダイソン:物理学者。未来への提言。
- 作者: フリーマンダイソン,Freeman Dyson,はやしはじめ,はやしまさる
- 出版社/メーカー: 三田出版会
- 発売日: 1998/03
- メディア: 単行本
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ラマンチャンドラン:神経学者。この本で鮮烈なデビューを飾る。不思議な病例の話。
- 作者: V・S・ラマチャンドラン,サンドラ・ブレイクスリー,山下 篤子
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/03/25
- メディア: 文庫
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リッチ・ハリス:心理学者。生まれか育ちかを「兄弟」の観点から追求。
子育ての大誤解〔新版〕上――重要なのは親じゃない (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: ジュディス・リッチ・ハリス,橘玲,石田理恵
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/08/24
- メディア: 文庫
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子育ての大誤解〔新版〕下――重要なのは親じゃない (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: ジュディス・リッチ・ハリス,橘玲,石田理恵
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/08/24
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ニコラス・ハンフリー:動物心理学者。詳しくは書評。
ethology.hatenablog.jp
ダニエル・デネット:生物系哲学者。この本は自然淘汰の哲学的理解。
- 作者: ダニエル・C.デネット,Daniel C. Dennett,山口泰司,大崎博,斎藤孝,石川幹人,久保田俊彦
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2000/12/01
- メディア: 単行本
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カール・ジンマー:生物系サイエンス・ライター。進化の読み物が秀悦。
- 作者: カール・ジンマー,長谷川眞理子,入江尚子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/05/30
- メディア: 単行本
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デイビット・バス:進化心理学者。殺人の研究で有名。
- 作者: デヴィッド・M.バス,David M. Buss,荒木文枝
- 出版社/メーカー: 柏書房
- 発売日: 2007/02/01
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ヘレナ・クローニン:生物系哲学者。科学史の本で有名。
- 作者: ヘレナクローニン,Helena Cronin,長谷川真理子
- 出版社/メーカー: 工作舎
- 発売日: 1994/07
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ポール・ブルーム:心理学者。ヒトの赤ちゃんの研究。
- 作者: ポール・ブルーム,春日井晶子
- 出版社/メーカー: ランダムハウス講談社
- 発売日: 2006/02/09
- メディア: 単行本
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ヘレン・フィッシャー:心理学者。愛情関係の著書が多い。
- 作者: ヘレン・E・フィッシャー,吉田利子
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 1993/05
- メディア: 単行本
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ピーター・アトキンス:物理学者。熱力学の啓蒙書で有名だけど、あえて本書に合わせて、自然淘汰から数学の話まで科学一般を射程に。
- 作者: ピーターアトキンス,Peter Atkins,斉藤隆央
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/12/01
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バロン・コーエン:心理学者。自閉症の研究で有名。
- 作者: サイモンバロン=コーエン,Simon Baron‐Cohen,長野敬,今野義孝,長畑正道
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2002/06/01
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ラドルフ・ネシー:医学者。生物進化の理論を医学に応用。
ペバーバーク:動物行動学者。鳥の認知、特にアレックスと名付けたインコの研究で有名。
- 作者: アイリーン・M・ペパーバーグ,Irene Maxine Pepperberg,佐柳信男
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/12/16
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ジャレット・ダイヤモンド:人類学者。「銃・病原菌・鉄」でなぜか日本でも有名に。あえて人類学の本を。
- 作者: ジャレドダイアモンド,長谷川真理子
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 1993/10/01
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ロバート・M・サポルスキー:霊長類学者。この本は自伝的。
サルなりに思い出す事など ―― 神経科学者がヒヒと暮らした奇天烈な日々
- 作者: ロバート・M・サポルスキー,大沢章子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2014/05/23
- メディア: 単行本
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生物系に偏って、他の分野(例えば物理屋)さんはほぼゼロの結果に。
<番外>何度か言及されてる人物
リチャード・ファインマン:物理学者、外伝が凄まじく、科学の本質を面白エピソードで。
- 作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/01/14
- メディア: 文庫
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- 作者: R.P.ファインマン,大貫昌子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/12/18
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フランシス・クリック:DNA構造の解明で有名。詳しくは書評。
ethology.hatenablog.jp
私なら、なぜか誰も言及していないけれど、性淘汰(sexual selection)を挙げたい。なぜなら美の究極的な意義であり、無機質な環境ではなく、生き物どうしの振る舞いこそが進化の要因とはなんて素敵なんだ。さらにそれを拡張?した社会淘汰(social selection)はいかが、ってほとんど検証すらされていないけど、、、。
その他の書評
http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20141231
http://honz.jp/articles/-/41024
http://1000ya.isis.ne.jp/1660.html